能の花 狂言の花

一観客として、能楽の面白さの一端を伝えられれば、と思っています。 初めてご来訪の方は「はじめに・・・能狂言に寄せて」のカテゴリーをご一読下さい。これまで書いた鑑賞記の索引を載せています。

班女 笹之伝 津村禮次郎(緑泉会例会)

観世流 喜多六平太記念能楽堂 2015.09.05
 シテ 津村禮次郎
  ワキ 殿田謙吉
  ワキツレ 梅村昌功 高井松男
  アイ 三宅右近
   大鼓 亀井広忠、小鼓 鵜澤洋太郎
   笛 寺井宏明

狂言口開、アイ野上の宿の長、右近さんが登場し常座にて語ります。

このブログでは、班女の鑑賞記をこれまで三度ほど書いておりまして、これまでの記載も併せて参照いただければと思います(能の鑑賞記の索引)が、アイは自分の抱える遊女花子が吉田の少将と契を交わして以来、交換した扇を眺めてばかりで勤めを怠っているので、皆からは班女と呼ばれており、差し障りもあるので追い出そうと思う旨を語ります。
班女・・・これも何度か書きましたが、前漢の成帝の寵姫であった班婕妤にちなんでのこと。彼女が帝の愛を失った我が身を扇にたとえた詩を作ったことから、皆が花子に班女とあだ名を付けたという訳です。

ところで狂言口開と書きましたが、間狂言が能の冒頭で登場し語ることで場面、状況設定を行うもので、現在能を中心に十数曲が数えられます。一曲の雰囲気を決めてしまうことになるため、狂言方としては重い扱いをしているようです。
今回の右近さんも、舞台を引き締めるような重い語り出しで、徐々に運びを早めて場を盛り上げていった感じです。

ともかくも、花子を「追い出し申さばやと存ずる」と言い切ったアイは、常座から立ち位置を変えて橋掛りの方へ向き、幕に向かって花子に早く出てくるようにと言って一度正面に向き直ります。
しかし再度橋掛りを向くと、花子の出を急かすように「えーい しんまくやの しんまくやの」・・・「慎莫」でしょうか、始末をキチンとするといった意味だと思うのですが、むしろ慎莫に負えない、慎重すぎて手に負えないくらいの意味なのか、その歩き様を見ているだけで腹立たしいといったことを言い募りワキ座へと下がります。
さてこのつづきはまた明日に
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班女のつづき

散々アイに急かされながらも、シテ花子はゆっくりと橋掛りを歩んで常座に出、下居します。
アイはワキ座に下居してシテを待っていますが、シテが座すと宿から追放すると言い、どこへなりとも出て行くようにと言ってシテに寄ります。まだその扇を持っているのかと、シテの扇を取り上げてたたきつけ、腹立ちやと言いながら退場しました。

シテは白ないし薄い黄の地に扇の文様を散らした唐織で、ゆっくりと扇を取り直し「げにやもとよりも定めなき世と云いながら 憂き節しげき川竹の 流れの身こそ悲しけれ」と謡ってシオリ。
地謡の下歌から上歌に。立ち上がったシテはゆっくりと右に向き、三足ほどワキ正に出て、下がりつつシオリ。そのシオリの形のまま退場します。
大小アシライでの中入となり、短い前場を終えます。

次第の囃子、ワキ吉田少将とワキツレ従者の登場。
ワキは風折烏帽子、白大口に長絹を着け、いささか身分ある人物の態。ワキツレ二人は従者らしく素袍上下です。
向き合っての次第、都への帰り道と謡って名乗り。道行の謡で野上の里についたと謡い、着きゼリフとなります。

ワキがワキツレを呼び出し、花子の消息を尋ねさせますが、長との不和で行方が知れないとの報告。ワキは、花子が戻ってきたなら都に知らせるようにと命じ、このやり取りの後、正面を向いて一呼吸。
急ぐうちに都に着いたと言って、この一呼吸で、舞台は美濃国野上の宿から、一気に都へと場面が代わります。

ワキは糺に参ると言って、ワキ座へと向かい、糺の森、下鴨神社にやって来た態で床几にかかります。ツレも地謡前に控えて、一声の囃子となりますが、さてこのつづきはまた明日に
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班女さらにつづき

長い一声の囃子のうちに、唐織脱下げに右肩に笹を担ったシテが登場し、一ノ松にて一声を謡い出します。

一声「春日野の雪間を分けて生い出でくる 草のはつかに見えし君かも」を謡ったシテは、「よしなき人に馴衣の」と詞を謡いつつ笹持つ手を差し出し、直してさらに「夕暮れの雲の旗手に物を思い」でも少し笹持つ手を差し出す形。

「神や仏も憐れみて 思う事を叶え給え」と二足程ツメて向きを変え、「しれ足柄箱根玉津島」と謡いつつ舞台に進んで常座へ。
「守らんと誓いおおわします」で開キ、常座に下居。笹を置いて「この神々に祈誓せば」と合掌します。

「謹上 再拝」と調子を高く取って謡い「恋すちょう・・・」と謡いつつ笹を取って立ち上がり、地謡の謡い出しに足拍子を一つ踏み、ワキ正へ出てさらに足拍子。常座へ下がるとカケリとなりました。
カケリでは、一度ワキを見込んで角に出て角トリ。左へ廻って大小前、足拍子を二つ踏んで正中へ打ち込むと、足拍子踏んで開キ。笹を肩に担い、角から常座に戻って小廻り。サシ込んで開キ「あらうらめしの人ごころや」と謡ってシオリます。
狂女の態の真骨頂という部分ですが、さらに直してサシの謡。
続く地謡の下歌、上歌に舞台を廻り常座に立ちます。

ワキツレが立って声をかけます。何度も書いているように、吉田の少将に随行して東に下り戻ってきて糺へとやって来たばかりの従者が「今日は何とて狂わぬぞ」というのは妙ですが、このあたりの整理が能の能らしいところで、おそらくは登場人物を一人整理したためでしょう。
このワキツレとのやり取りから地謡となり、ワキツレは下居。シテは二、三足程出て正中で開キ、笹でサシ、正中に出て下居しクリになります。
地謡の流れるような謡の中、シテは笹を置いて座しサシ。そしてクセへと謡が続きます。さてこのつづきはまた明日に
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班女さらにさらにつづき

クセは暫し地謡を聞き「比翼連理の語らい その驪山宮の私語も」と聞いてシオリ。「さるにても我が夫の」で笹を持って立ち上がり、常座を廻って「夕べの数は重なれど」で橋掛りへ。
一ノ松を過ぎたあたりで「頼めて来ぬ夜は積もれども」と正に向き直り、「欄干に立ち尽くして」と一ノ松まで出て、笹を右に抱え「其方の空よと眺むれば」と遠く眺める気色。そこから舞台に戻って「山颪」で正中あたり。ワキ正を見て笹を落とし「音信を何時聞かまし」と正を向きます。

扇を懐中から出して広げ「せめてもの 形見の扇手にふれて」の上げ端で大左右に。
「秋風冷ややかに吹き落ちて団雪の」とワキ正から正先へ打ち込んで開キ、「扇も雪なれば」と扇を前に出して見込んで開きます。

舞台を廻って常座でサシ込み開キ。六拍子を踏んでサシ、角へ。扇をカザして左へ廻ると「思いつづけて独居の」と大小前左右。地謡の「絵に描ける」で扇を閉じ、常座から大小前へ進み中ノ舞の舞出しです。

中ノ舞を常座で舞上げるとワカ。「持ちたる扇」と上扇。角に出て扇を左に取り、舞台を廻ります。
班女の舞アトは仕舞でもお馴染みですが「形見の扇より なお裏表あるものは人心」と扇の裏、表を反す型は印象に残るところ。「逢わでぞ恋は添うものを」と下居してシオリ、ワキの詞になります。

ワキに命じられたワキツレが、シテに扇を見せるように求めますが、シテは「人に見する事あらじ」と懐中に扇をしまい込みます。
ロンギ。ワキツレがワキに寄り、扇を預かってシテに向くと「輿の内より」とシテは謡いつつ立ち上がり、同時に立ち上がったワキツレから正中で扇を受け取り「折節黄昏に」で扇を広げ「花を描きたる扇なり」で扇を左に抱えます。

シテは立ち上がるとワキに寄り、懐中から扇を出して渡し、二人が扇を広げて「御覧ぜよ互いに」と扇を見せ合う形。シテは立ち上がって正中に出、羽根扇。
常座に廻って留拍子を踏み、終曲となりました。
(80分:当日の上演時間をおおよそで記しておきます)
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昭君 桑田貴志(緑泉会例会)

観世流 喜多六平太記念能楽堂 2015.09.05
 シテ 桑田貴志
  ツレ 佐久間二郎、子方 桑田大志郎
  ワキ 舘田善博
  アイ 三宅右矩
   大鼓 高野彰、小鼓 観世新九郎
   太鼓 大川典良、笛 八反田智子

王昭君の逸話は、たしか高校時代に世界史で習ったような記憶があるのですが、はて教科書に載っていたのか、先生の蘊蓄話の中でのことだったのか・・・。前漢の元帝の時ですから、紀元前48年から前33年の時期に、匈奴の呼韓邪単于(こかんやぜんう)に嫁した女性です。
能にはよくあることですが、曲名は昭君であるもののシテは昭君ではなく、前シテは昭君の父である白桃、後シテは呼韓邪単于(観世流以外は韓邪将とするようですが)の幽霊という、いささか変則的な形です。このあたりをめぐる点については、鑑賞記のあとで書いてみようと思います。

さて舞台はまず名宣笛でワキ舘田さんの登場。笛の音にしみじみと聴き入ってしまいますが、同じ流儀でも差し指の違いで印象が随分と違います。演者の個性が感じられるところです。
登場したワキは、白大口に側次を着け、唐土江甫の里に住まいする者と名乗ります。このあたりに白桃王母という老夫婦が住んでいるが、この夫婦の娘昭君は並びない美人で、帝に召されて寵愛を受けていた。しかし事情あって胡人の国へ差し遣わされたため、父母の歎きが深く、慰めようと夫婦の家に向かうところだと説明します。

これを受けて一声の囃子。前シテ、ツレの登場となります。
先に出たツレ姥が王母で、無紅の唐織に青系の褸の水衣を着けて左手に萩箒を持っています。後から出たシテ老人、こちらが白桃ということになりますが、鼠色の無地熨斗目着流しに絓水衣を肩上げ、こちらも右手に萩箒を持っています。
橋掛りを進み、先に立ったツレが振り返り、幕前のシテと向き合っての謡い出しとなりますが、このつづきはまた明日に
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昭君のつづき

二人は向き合って、花の木陰に立ち寄れば雪が降る様子を謡い、白桃王母の夫婦と名乗ります。娘である昭君が容顔人に勝り、帝都に召されて明妃と名をあらため寵愛を受けていたが、胡国へ遣わされることになった次第を謡い、その身を「思いやるこそ悲しけれ」と向き合ってシオリます。

二人は続けて、供奉の官人達が旅の慰めに管弦を奏し、馬上に琵琶を弾く初めとなったことなどを謡い、下歌で、絵に描かれたその姿を思いやるとシテがシオリ。上歌では糸柳が風に乱れるように思い乱れる折節ではあるが、と謡い舞台に向かい、続けて木陰に立ち寄り塵を掃こうと謡ってツレが正中に、シテが常座に立ちます。

余談ですが「明妃その名を改めて」と謡にはありますが、これは後に三国時代の混乱を収拾した晋の時代になって、天下を統一した武帝司馬炎の父であり、文帝と諡された司馬昭の諱「昭」を憚って、昭君を明君と言い換えたことによるようです。したがって三百年も後の世のことですから、昭君の父母が謡うのは変なのですが、そこは謡曲にはよくあることで、気にせず先に進みます。

舞台に立った二人は向き合ったり、戻したりしつつ、子を思う親の思いを謡い、地謡の「落葉の積もる木陰にや 嵐も塵となりぬらん」の謡に舞台上で萩箒を使い、落ち葉を掃き清める形。ワキ正あたりを二人して見やり、シテが見廻す型を見せます。

地謡の上歌「げに世の中に憂き事の 心にかかる塵の身は」で、まずシテは正面を、ツレは目付柱の方を向いて立ち、ツレは向きを変えると大小前で正面に向き直ります。
シテは「払いもあえぬ袖の露」と手を差し出し「涙の数や積もるらん」とシオリます。さらにワキ正に出て足許を見、面を上げて「しばし袖に宿さん」とやや遠くを見やる風。
下歌「涙の露の」で正面を向き、ツレは後見に箒を渡すと常座に向かいます。シテは正中で箒を落として下居。常座からワキ正に出たツレがシテに向いて腰を下ろすと、シテが余りに苦しいので休もうと言います。

ここでワキが「この家のうちに案内申し候」と声をかけます。
シテとワキの問答になりますが、このつづきはまた明日に
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昭君さらにつづき

ワキは、昭君の訪いにやって来たと述べ、さらに夫婦が柳の木陰を掃き清めて泣いているのはどういうわけかと問います。
シテが答えて言うには、昭君が胡国に遷る際に柳を植え置き、自分が胡国で死んでしまったならば、この柳も枯れるだろうと言い残して行ったのだが、その柳が既に片枝、枯れてしまった、とシオリます。

ワキがこれをいたみ、昭君が胡国に遣わされた子細を物語るようにと求め、これを受けてシテのクリ。地謡が受けて交互に謡い続け、胡国の軍と和睦するにあたって美人を一人使わすことになったことが謡われます。クリの謡でシテの肩上げが下ろされて、クセに続きます。

クセは居グセ。
漢王の宣旨によって、三千人の寵姫の絵姿を描かせ、その中に劣る者あれば胡国に遣わすこととなった。宮女達は絵師に賂を贈り美しく絵姿を描かせたが、昭君はただそのままに描かせたために美しくない絵姿にされてしまった。漢王の寵愛は深かったが、絵姿によって選ぶとした以上、仕方なく昭君を胡国に遣わすことになった、と謡われます。

この途中で後見が鏡を持ち出しシテ柱の横に据えます。
クセの後、シテは、昔桃葉という人が仙女と契ったが、その仙女が亡くなってしまった。しかし桃の花を鏡に映すと、仙女の姿が鏡に映ったという。ならばこの柳も鏡に映し、昭君の姿を鏡に映し出そうと言います。

シテ、ツレの謡で、夢を鏡に映し出した故事や、故郷を鏡に映し出した故事が謡われ、地謡が「散りかかる花や曇るらん思いはいとど真澄鏡もしも姿を見るやと鏡に向かって泣き居たり」と謡うなか、シテは鏡に寄って正先へと運び、鏡を据えると下がって正中でモロシオリ。この間にツレは地謡座前に下居し、ワキは切戸口から退場します。

「鏡に向かって泣き居たり」と繰り返す地謡を聞き、シテは立って中入。ツレはそのまま居残り、間狂言が常座に進みます。
さてこのつづきはまた明日に
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昭君さらにさらにつづき

アイは王昭君に仕えた者と名乗り、語り出します。

漢帝が三千人の寵姫の絵姿を描かせたが、それぞれが絵師に賂を贈り、妙なる姿に描いてもらった。しかし昭君は第一の美人であったのを頼みにしたのか、絵師に賂を贈らなかったため、あらぬ姿に描かれてしまった。

その頃、胡国の韓邪将が攻め寄せてきており、戦の絶える暇も無かったが、韓邪将は宮女を一人もらえれば和睦しようと言ってきた。帝は天下の乱を鎮めるためにやむなしとして、宮女を送ることにした。宮女達の絵姿を持ってこさせて見比べたところ、昭君の姿が劣っていたので胡国へ遣わすこととした。

昭君は泣く泣く胡国に行ったものの、故郷を思い焦がれるうちに亡くなり、亡骸は土中に突き込めた。昭君の霊魂のゆえか、都の柳には胡国の色が出るようだ。皆々、柳の色を見、昭君の父母を慰めよう、と触れて狂言座に下がります。
聞き取りなので、いささか怪しいのですが、右矩さんが重々しく語って下がると後場。

まずは一声で子方昭君が登場してきます。装束附には摺箔に白大口または色大口、紅入唐織壺折とあるのですが、緋大口に舞衣のような薄い感じの上着だったように記憶しています。このあたりは記憶がいささか怪しいのですが、ともかくも天冠を着け、身分ある女性であることを示します。
この昭君をシテではなく子方にするあたりが、能の能らしいところですが、一ノ松に立った子方は王昭君の幽霊と名乗り、父母を思うと謡ってシオリ。鏡に姿を映して父母に見せようと謡うと舞台に向かい、笛座前にて床几に腰を下ろします。

地謡の「曇りながらも影見えん」の謡から早笛に。
後シテ呼韓邪単于の霊が登場し、正先に置かれた鏡の前まで素早く進み出ると、正中まで下がって飛び安座して存在感を示します。黒頭に唐冠、法被半切の勇ましい姿です。

舞台に居残ったツレ姥が、恐ろしい鬼の姿が見えるが、一体どなたが鏡に映ったのかと謡います。後シテは胡国の夷の大将、呼韓邪単于の幽霊と名乗りますが、さてこのつづきはまた明日に
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昭君もう一日のつづき

ツレは、胡国の夷は人間だろうに、鏡に映った姿は人ではなく、冥土の鬼だろうかと謡います。これに対してシテは、呼韓邪単于も死して昭君の父母と対面にやって来たのだと語ります。
恐ろしいという姥に、シテはどうして怖がるのかと問いますが、鏡に映して自分の姿を見てみるようにと言われ「いでいで鏡に影を映さん」と立ち上がって下がり「鏡に立ち寄りよくよく見れば」と鏡に寄ります。「恐れ給うもあら道理や」と下がって扇をを広げると、ノリ地の地謡に。

一回りして鏡にサシ込み、下がって扇持つ右手を上げ、「元結更にたまらねば」と手を下ろしつつ正中に。「さね葛にて結び下げ」と左手に髪を取り、下がって面を上げると、ツレを見込んで下がり、ここから「姿も恥ずかし鏡に寄り添い」と正先に出て一つ飛ぶと下がりガッシ。自らの恐ろしい姿に驚き恥じる様を謡に合わせて示します。
「恐ろしかりける顔つきかな 面目なしとて立ち帰る」と鏡に寄り、よくよく見込んだ後、常座に下がります。

キリになり、六拍子、踏み返し、扇を上げてサシ込み開キ、サシてサシ込み開キと舞台を廻り、角で後ろを向いて常座に向かい小廻りして開キ。左袖を巻いて「誠を映す鏡なれ」と留拍子を踏み、終曲となりました。

さて冒頭に、この曲はいささか変則的と書きましたが、この曲は金春系の古曲を夢幻能の形に合わせて改訂したものだろうと推定されています。
筋を追えば、昭君の父母のところに昭君と呼韓邪単于の幽霊が現れ対面するというのが基本の枠組みですから、父が姿を消してしまうのは妙です。

おそらくは父母が登場して嘆き悲しむところに、シテ昭君の霊とツレ韓邪将の霊が現れ、昭君の霊がなにがしかの舞を舞って成仏する、という一場物の曲だったのではないかと想像します。流儀によっては、あるいは観世流でも演出によっては、昭君を子方ではなくツレとして登場させることもあり、また韓邪将が舞働を舞うこともあるようです。

夢幻能の形式を尊重すれば現行の形になるのでしょうけれども、いささか分かりにくいし、韓邪将がシテというのも、昭君の悲劇からテーマがズレてしまう感もあります。
昭君がシテとして舞を舞うような演出も試みられている様ですが、こうした様々な動きも、長い歴史のある能ゆえかも知れません。
(56分:当日の上演時間をおおよそで記しておきます)
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緑泉会例会の狂言、仕舞など

またまた、だいぶん間が開いてしまいましたが・・・
9月の緑泉会では、狂言が三宅近成さんと高澤祐介さんで水汲。
仕舞が三番で、坂真太郎さんが呉服、奥川恒治さんが駒之段、鈴木啓吾さんが経正のキリをそれぞれ舞いました。

「水汲」は「面白い狂言」というわけではありませんが、不思議に味わい深い曲です。
門前の女「いちゃ」が水汲に出かけ、野中の清水で洗い物をしていると、新発意がやって来て言い寄るという、簡単に言ってしまえばそれだけの曲。
最後は「いちゃ」に水をかけられた新発意が、濡れ鼠になり「くっさめ」とクシャミをして留になりますが、留以外はさほど笑いを誘うような展開でもありません。

ただ小歌を歌いかけ、ともに謡ったりなど、男女の情感にウェイトがおかれて、そこが独特の雰囲気を醸し出すのかも知れません。
こうした歌を歌えるのも、中世庶民の楽しみでもあり、嗜みであったのかも知れず、小歌を聴かせるのを主題に造られた、ないしは改作された狂言なのかとも思います。
いずれにしても、近成さんと高澤さんの謡、しみじみと聞いたところです。

仕舞が入るのは、一日の会の構成として良いと思う・・・と以前書いた記憶があります。
三番それぞれに楽しめました。
坂真太郎さん、良い雰囲気です。お父様も美声でしたが、65歳と、まだまだこれからが活躍の時期に亡くなられたお父様の、良いところを受け継がれたような印象です。ご本人の精進のたまものと思いますが・・・

当麻 小倉敏克(宝生会秋の別会能)

宝生流 宝生能楽堂 2015.10.25
 シテ 小倉敏克
  ツレ 小倉健太郎
  ワキ 森常好
  アイ 石田幸雄
   大鼓 柿原崇志、小鼓 曾和正博
   太鼓 観世元伯、笛 藤田朝太郎

当麻、能の曲名は「たえま」ですが、舞台となった「当麻寺」の読みは「たいま」。どうも古くは「当麻」を「たぎま」や「たえま」と読んだらしいのですが、その後、「たいま」が標準的な読みになってきたようです。もっとも「とうま」とも読める訳で、実際、北海道の「当麻町」は「とうま」と読みますし、映画にもなった「SPEC」の戸田恵梨香さん演じる主人公「当麻紗綾」も「とうま」ですね。

全くの余談ですが、「SPEC」の監督で有名な堤幸彦さん、「金田一少年の事件簿」以来のファンです。「ケイゾク」、「TRIC」のシリーズや「20世紀少年」でも有名ですね。ちょっとマイナーかも知れませんが「ぼくらの勇気 未満都市」シリーズも好きな作品です。
「若者の支持を得て」人気を博してきた堤さんでもあり、私の年齢からいうと「どうなの!?」と言われそうですが、私自身はたいへん気に入っています。作っている側の堤さん自身は私と同年ですし・・・

閑話休題・・・当麻は中将姫伝説をめぐる能ですが、中将姫伝説については3年程前に雲雀山の鑑賞記(鑑賞記初日月リンク)を書いた際に触れていますので、併せてご参照下さい。
ともかくも、まずは舞台の様子から。

囃子方、地謡が登場してきます。この日は上下姿でした。やや長い間があってヒシギ。次第の囃子でワキの登場です。
ワキ僧の森常好さんは白大口に小格子厚板。茶系の絓水衣に、薄緑の角帽子を着けています。ワキツレ従僧の二人は白大口に紺の無地熨斗目、枯草色の褸水衣に紫の角帽子の装束で、ワキ僧一行はやや身分ある感じ。
舞台中央に向き合って次第を謡いますが、さてこのつづきはまた明日に
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