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能の花 狂言の花

一観客として、能楽の面白さの一端を伝えられれば、と思っています。 初めてご来訪の方は「はじめに・・・能狂言に寄せて」のカテゴリーをご一読下さい。これまで書いた鑑賞記の索引を載せています。

武悪 善竹大二郎(奥川恒治の会)

大蔵流 国立能楽堂 2020.09.27
 シテ 善竹大二郎
  主     善竹十郎
  太郎冠者 山本泰太郎

狂言の大曲、武悪です。
このブログを始めてからの期間では、もう6年ほど前になりますが、納涼茂山狂言祭で観ています。しかしこの時はメモも取らず、ひたすら舞台に見入っておりまして、しかも時間の都合で武悪の途中で失礼してしまったため鑑賞記は書いていません。というわけで、今回、鑑賞記としては初登場の一曲。
富太郎さんが惜しくも今年逝去されたこともあってか、今回は太郎冠者を山本泰太郎さんが勤められました。本曲は特に前半が重く、笑いのない展開ですが、山本家の芸風はそうした曲にうまく嵌っている感じがします。

さて舞台にはまず主の十郎さんが登場してきます。段熨斗目に長上下、左の手に太刀を持ちゆっくりと舞台に入ると、正中で「誰ぞおるか」と大きな声を出します。以前にも書いたように、和泉流では「三主」といって、この武悪と鬮罪人、止動方角の三曲の主を怖い主人として数え上げるそうですが、流儀の違いはあっても「たしかに」と思わせるような厳しい口調です。
太郎冠者は大小前に着座して控えていますが、何度か呼ばれてようやく出ます。さらに、言いつくることがあるから前に出よ、ずっと出い、と度々言われてようやく一足だけ前に出ます。主人の前に出るのをおそれているのかと思わせる形です。

主人は太郎冠者に同じく奉公人の武悪のことを尋ね、今日も出勤していないと聞くと、武悪を討ってくるようにと言いつけます。武悪が長々と休んで出勤しないのを苦々しく思っていた主は、とうとう堪忍袋の緒が切れたという態。太郎冠者はなんとか言い訳をしようとしますが、主人は許さず太刀を構えて太郎冠者を追い詰め、太郎冠者はやむなく武悪を討つ命に従うことにして両手で太刀を受け取ります。
一連のやり取りの後、主は笛座前に下がって控え、太郎冠者はやむなく「武悪を討ちに参ろうと存ずる」と言って舞台を回り始めます。例のごとく舞台を廻りますが、ワキ座の前あたりから思い切り、橋掛りへ走ると一ノ松から案内を乞います。
呼ばれて武悪が登場し、幕前で太郎冠者とのやり取りとなりますが、このつづきはまた明日に
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武悪のつづき

武悪を討ち取ってこいと命じられた太郎冠者ですが、いきなり襲うわけにもいかず、注進に来たと言います。武悪は驚いて何のことかと尋ねますが、太郎冠者は答えて、主人の所に急に客人が来ることになり肴が入り用になった。武悪は川魚を捕るのが得意だから、川魚を捕って主に差し上げれば、出勤の良いきっかけになるだろうなどと言います。
これを受けて、二人で川魚を捕りに行くことになります。二人して舞台に入り、魚のいる池にやって来た形です。

武悪は早速に水に入り、魚を追って捕まえようとします。魚を追う武悪の後ろに回った太郎冠者が、斬りつけようとしてなかなか果たせず何度か仕掛け、とうとう気付いた武悪とのやり取り。
太郎冠者は主から武悪を討ってこいと命じられた子細を語ります。
武悪は、太郎冠者がこれまで庇ってくれたことを思い、太郎冠者に討たれることにします。討たれるのは仕方ないが、家にいた時に言ってくれれば家族にも別れが告げられたのにといった武悪の言葉もありますが、ともかくも武悪は討たれる覚悟をします。

しかしいざ討とうとすると、太郎冠者は武悪を斬ることができず、武悪を落ちのびさせることにします。ただし主には武悪を討ったことにするので、このまま見えぬ国へ行くようにと武悪を諭します。太郎冠者と武悪は、命があればいつかまた会うこともあろうと言って別れます。
さらばさらばと、武悪は地謡座前に立ち、太郎冠者は常座で別れを告げてシオリつつ舞台を廻ります。武悪は常座から狂言座へと進みクツロギます。太郎冠者はあらためて常座に出て主に報告する形になります。

ここまでがおおよそ上演時間の半分ほどです。たいへん重い話で笑いもありませんが、太郎冠者の心情、武悪の心情など、なかなかによく描かれている印象です。狂言記などでは、主人が登場して大名と名ノリ、太郎冠者を呼び出して不奉公の武悪を搦め捕って来るように命じます。太郎冠者は武悪が腕に覚えの者なので搦め捕るのは無理だと言い、主はそれならば首を打ってこいといいます。太郎冠者は自分の差し料では心許ないので、太刀を貸して欲しいと言い、主の太刀を持って出かける形です。太郎冠者は別段武悪のことを思っている気配はないのですが、いざ武悪を斬る段になって、明日は我が身と武悪を斬ることを思いとどまる展開になっています。いささか強引な感じで、そのあたりは現行の形の方が良くできた印象です。現行では両流ともほとんど違いがありません。

さて武悪を討ってきたと嘘の報告をする太郎冠者ですが、このつづきはまた明日に
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武悪さらにつづき

太郎冠者が戻り、主との問答。主は太郎冠者が武悪を討ったと聞いて「せいせいする」と言い、こういう時は遊山に出かけようと東山へ行くことにします。主が先に立ち、太郎冠者があとについて、二人舞台を回って東山へとやって来ます。

すると武悪が立ち上がりどこぞへ行こうとする形になりますが、この武悪の姿を主が見つけ、太郎冠者に武悪がいたが本当に武悪を討ってきたのかと詰問します。太郎冠者は弓矢八幡討ってきたと答えますが、主は弓矢八幡と言うならば…と納得はするものの、では様子を見てこようと言い出します。太郎冠者は主に武悪を見られてはたいへんと、こんなときこそ自分がいるのだと言って様子を見てくることにします。
さて橋掛りに進んで武悪を見つけた態の太郎冠者は、武悪を詰問しますが、武悪は日ごろ信仰していた清水の観世音に別れの挨拶に来たのだと説明します。そしてこの上は自分の首を取って主に差し出すようにと言います。しかし太郎冠者は、いったん武悪を討ってきたと申し上げたのに、いまさら武悪の首ですなどと言えるかと怒り、武悪に幽霊になれと言います。
「いろんなものになってきたが未だ幽霊になったことはない」などと言う武悪に、太郎冠者はだれも幽霊になったものなどいない、昔からいう幽霊らしい姿で出てこいということだと言い、承知した武悪は、おっつけ出ようと言って幕に入ります。

太郎冠者は常座に戻り、主に誰もいなかったと報告します。誰もいないのかと訝る主に、太郎冠者は、武悪が死ぬ前にもう一度主にお目にかかりたいと言っていたので、武悪の幽霊が出たのではないかと言います。ここから突然に「怖い主」が「怖がる主」になり、笑いのある狂言らしい展開になっていきます。
まもなく武悪が黒頭に、白装束で登場してきます。主は異形の者が出たと言いますが、恐れつつも声をかけます。すると武悪は、武悪の幽霊と名乗り、主命に背いたので地獄へも行かず、ましてや極楽にも行けず、魂は冥途へ行くとも魄はこの地にさ迷っているなどと言います。主は武悪に、死んだのなら向こうで先に死んだ人と会ったかと問いかけますが、これに答えて、武悪は大殿に会ったと言い出します。
亡き父と聞いて主は消息を聞きたがりますが、武悪は、大殿が修羅道に落ちて朝夕戦いに明け暮れ、太刀・刀も折れてしまったので、持ってくるようにと命じられたと言います。これを聞いて主は父があの世でも苦労をしていると泣き、太郎冠者に手持ちの太刀・刀を武悪に持たせよと命じます。
太郎冠者はもう良いだろうと言いますが、調子に乗った武悪は、まだあると言って、扇を持ってくるようにも命じられたと言います。これまた主が手持ちの扇を渡し、太郎冠者はさらにもう良いだろうと重ねますが、武悪は聞かず、まだあると言って、あの世は広いので主に出会ったら連れてくるようにと大殿に命じられたと言います。
さすがの主も、これは親の我が侭というものだと言い出し、こちらの狭い家で十分だと父に伝えるようにと武悪に言いますが、武悪はお連れすると繰り返し、主を追い込む形で終曲となりました。

古い時代の形からは随分と変化しているらしいのですが、なかなかに良くできた一曲という印象でした。
山本泰太郎さんを迎えての一番も、違和感なく楽しめたところです。が、それにつけても富太郎さんがご存命であれば、となんとも残念な思いを感じた次第でした。
(50分:当日の上演時間をおおよそで記しておきます)
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