簸屑 野村萬(国立能楽堂定例公演)
和泉流 国立能楽堂 2022.02.02
シテ 野村萬
アド 能村晶人、小アド 野村万之丞
アド主人役の能村晶人さんが、段熨斗目に長上下の装束で登場し、常座で宇治の里に住まいする者と名乗ります。宇治橋の供養が近々行われるので、太郎冠者に言いつけることがあると言って太郎冠者を呼び出します。
当初の番組では、シテ太郎冠者は万蔵さんの予定だったのですが、休演となり代わって萬さんがシテ。小格子縞熨斗目に薄い緑色の半袴、紺地の肩衣は大きく松が白抜きに描かれています。アドとともに登場して後座に控えていますが、主人に呼び出される形で進み出て、主人がワキ座、シテが常座で問答となります。
橋供養の際は道者(巡礼者)が大勢やって来ようが、今年は先祖の年忌に当たっているので接待をしようと思うと主人が言い出します。シテは、それは良いとあいづちを打っていますが、主人は接待に薄茶を出すので、茶時に除けておいた簸屑を挽いておくようにと命じます。
シテは他に用事があるので次郎冠者に命じてほしいと言い出します。しかし主人は、今朝ほど山一つ向こうに行くよう命じた際に持病に脚気があると断ったので次郎冠者を遣わしたではないか、と怒り出し、まず今日は汝が挽くようにと重ねて命じます。これにはシテも畏まり、主人は用事があって山一つ向こうに出かけるので、その間に油断なく挽いておけと命じ、臼も出しておいたと言い置いて出かけていきます。
シテは臼を探す態から、臼に見立てた鬘桶を持ち出してワキ座で茶を挽く形となります。まず蓋を取ってみようと言って茶を見ると、さてもさても色の悪い茶ぢゃと、簸屑だけに色も悪いことを言い立てます。しかし主人は「極(ごく)の内をよりぬひた簸屑」と言っていて、濃茶の最上級品である「極」から選り分けたものなので、シテも「極のゆかり程あって香(にほ)ひは良い」と、認めるところは認める様子。そして「頼うた人の様なしんまくな人はあるまい」と続けます。国立能楽堂のパンフレットには「しんまく=しみったれてケチ臭い」とあるのですが、しんまくは日本国語大辞典などでは、まじめ、実直、律儀なことなどとしており、もともとはケチ臭いという悪い意味ではなかった様子です。このシテの言葉も、かたやケチ臭いと思う一方で、きちんとした人という心持もありそうに感じました。
ともかくも茶を挽いていると、シテは眠くてたまらないと言い出します。そこに小アド次郎冠者の万之丞さんが登場します。濃い格子柄の縞熨斗目に灰色の半袴、黄色地の肩衣には白黒の碁石と思われる絵柄が描かれています。一ノ松で名乗ると角へ出てシテに声をかけます。
小アドはシテに眠そうだがと言います。シテはこれに答えているうちにも寝てしまいます。そこで小アドは、目が覚めるように何か話をして聞かせようかと言い、シテもそれはよかろうと同意します。
さて小アドは、先日、月の夜に河原に相撲があったので、お使いのついでに立ち寄って見物したと話し始めます。東方から小男が出て、西方を全部とり尽くしてしまった。もはやこのあとは続くものがいないだろうと皆が思った様子なので、自分が裸になって出て、その小男の小腕(こがひな)を取って捉え、大地へずでいどうと投げつけたと話しますが、シテは眠ってしまっています。
小アドは「太郎冠者」と呼び掛けてシテを起こし、今の話を聞いていたかと尋ねますが、何も聞いていなかったという返事。人に話をさせておいて寝るものがあるかと小アドが怒りますが、シテは人の話をききつつ眠るのはよいものだなどと言いつつ、その言葉の下から眠ってしまいます。
小アドは困った様子を見せますが、このつづきはまた明日に
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このブログの記載方法などについてまとめています(リンク) 初めてご来訪の方はお読みいただけると幸いです
シテ 野村萬
アド 能村晶人、小アド 野村万之丞
アド主人役の能村晶人さんが、段熨斗目に長上下の装束で登場し、常座で宇治の里に住まいする者と名乗ります。宇治橋の供養が近々行われるので、太郎冠者に言いつけることがあると言って太郎冠者を呼び出します。
当初の番組では、シテ太郎冠者は万蔵さんの予定だったのですが、休演となり代わって萬さんがシテ。小格子縞熨斗目に薄い緑色の半袴、紺地の肩衣は大きく松が白抜きに描かれています。アドとともに登場して後座に控えていますが、主人に呼び出される形で進み出て、主人がワキ座、シテが常座で問答となります。
橋供養の際は道者(巡礼者)が大勢やって来ようが、今年は先祖の年忌に当たっているので接待をしようと思うと主人が言い出します。シテは、それは良いとあいづちを打っていますが、主人は接待に薄茶を出すので、茶時に除けておいた簸屑を挽いておくようにと命じます。
シテは他に用事があるので次郎冠者に命じてほしいと言い出します。しかし主人は、今朝ほど山一つ向こうに行くよう命じた際に持病に脚気があると断ったので次郎冠者を遣わしたではないか、と怒り出し、まず今日は汝が挽くようにと重ねて命じます。これにはシテも畏まり、主人は用事があって山一つ向こうに出かけるので、その間に油断なく挽いておけと命じ、臼も出しておいたと言い置いて出かけていきます。
シテは臼を探す態から、臼に見立てた鬘桶を持ち出してワキ座で茶を挽く形となります。まず蓋を取ってみようと言って茶を見ると、さてもさても色の悪い茶ぢゃと、簸屑だけに色も悪いことを言い立てます。しかし主人は「極(ごく)の内をよりぬひた簸屑」と言っていて、濃茶の最上級品である「極」から選り分けたものなので、シテも「極のゆかり程あって香(にほ)ひは良い」と、認めるところは認める様子。そして「頼うた人の様なしんまくな人はあるまい」と続けます。国立能楽堂のパンフレットには「しんまく=しみったれてケチ臭い」とあるのですが、しんまくは日本国語大辞典などでは、まじめ、実直、律儀なことなどとしており、もともとはケチ臭いという悪い意味ではなかった様子です。このシテの言葉も、かたやケチ臭いと思う一方で、きちんとした人という心持もありそうに感じました。
ともかくも茶を挽いていると、シテは眠くてたまらないと言い出します。そこに小アド次郎冠者の万之丞さんが登場します。濃い格子柄の縞熨斗目に灰色の半袴、黄色地の肩衣には白黒の碁石と思われる絵柄が描かれています。一ノ松で名乗ると角へ出てシテに声をかけます。
小アドはシテに眠そうだがと言います。シテはこれに答えているうちにも寝てしまいます。そこで小アドは、目が覚めるように何か話をして聞かせようかと言い、シテもそれはよかろうと同意します。
さて小アドは、先日、月の夜に河原に相撲があったので、お使いのついでに立ち寄って見物したと話し始めます。東方から小男が出て、西方を全部とり尽くしてしまった。もはやこのあとは続くものがいないだろうと皆が思った様子なので、自分が裸になって出て、その小男の小腕(こがひな)を取って捉え、大地へずでいどうと投げつけたと話しますが、シテは眠ってしまっています。
小アドは「太郎冠者」と呼び掛けてシテを起こし、今の話を聞いていたかと尋ねますが、何も聞いていなかったという返事。人に話をさせておいて寝るものがあるかと小アドが怒りますが、シテは人の話をききつつ眠るのはよいものだなどと言いつつ、その言葉の下から眠ってしまいます。
小アドは困った様子を見せますが、このつづきはまた明日に
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