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能の花 狂言の花

一観客として、能楽の面白さの一端を伝えられれば、と思っています。 初めてご来訪の方は「はじめに・・・能狂言に寄せて」のカテゴリーをご一読下さい。これまで書いた鑑賞記の索引を載せています。

室君(むろぎみ)について…能の曲あれこれ

観世流と金春流にのみある曲ですが、いずれも滅多に上演されない稀曲の類です。そんな曲であるため、解説の類もほとんど見あたりませんので、国立能楽堂の二月のパンフレットに掲載されている村上湛さんの文をもとに本曲についてまとめておこうと思います。
村上さんの文では、本曲は古く「竿ノ哥之能」と呼ばれたらしいといありますが、宝山寺蔵の能本三十五番目録には、上段にユミヤワタから始まる三十三の曲名が記載され、下に別人の筆と思われる字体で、「此外、ヨロボシ、竿ノ哥之能アリ」とあります。この別筆で記載された曲が本曲の古名ということのようです。宝山寺蔵の目録は、世阿弥自筆能本などの包み紙だったのではないかと言われているようですが、もともとの三十三曲に、後世増補が行われたと思われるので、「竿ノ哥之能」が室君の古名だとしても、本曲が世阿弥の作かどうかは全く分からず、制作年代も分からない様子です。
金春流では戦国時代に本曲の上演記録があるそうですが、他流では見られず、その後の寛延三年(1750)に江戸城で上演されて金春流の固有の曲となったようです。一方、観世流では江戸時代に番外曲として謡本のみ発刊されていたところ、十五世観世元章の明和改正の際に実演曲に取られたとのことですが、本格的に現行曲とされたのは明治以降のことだそうです。
観世流では元章の試案の際に、作り物を省くなど演出の簡略化が相当に行われたためなのか、滅多に上演されません。金春流の本曲は、一時間ほどの上演時間で舞もあり舞台もはなやかですが、なにぶんシテの謡が一句もないという独特な構成なので、そのあたりの事情でこちらも上演が稀なのかも知れません。シテ謡が一句もないのは羅生門、現在鵺と本曲の三曲しかないとのことで、確かにいずれも稀曲中の稀曲です。あれ?檀風もシテの謡は無かったような…と思い、確認してみましたが、こちらはシテは後場だけに登場するものの、ロンギで四句ほど謡っていました。
さて本曲のあらすじですが、播州室の明神では御神事の際に、室の津の遊女である室君たちを舟に乗せ、囃子物をして参詣するのが習わしとなっています。神職が室津の長に命じ、長が室君たちを促して舟に乗せて神前に参詣します。神職は神楽を舞うように求め、一人の室君が神楽を奉納します。するとこれに感じて明神の本地である韋提希夫人(いだいけぶにん)が姿を現して舞を舞い、明け方の雲に乗って天上に上がっていきます。
江口も遊女の登場する能ですが、江口は仏教色が豊かで深い陰翳も感じられる一曲であるのに対し、本曲は陰翳のない脇能に近い祝言性が特色であると、村上さんが解説されています。たしかに上演時間も短めで、深い陰翳を感じさせない一番ではあります。
ところで野上豊一郎さんの解註謡曲全集には、室の明神の本地が韋提希夫人であるというのは、どういう根拠なのか分からないという記載があります。韋提希夫人というのは釈迦と同時代の中インド、マガダ国ビンビサーラ王の妃ですが、王子アジャータシャトルが王を幽閉し餓死させようとしたとき、ひそかに肌に粉をぬり、装身具に飲みものを満たして牢を訪れ、王を養ったものの発覚し自らも幽閉されたとされます。この世に絶望して阿弥陀仏の浄土を願い牢内から祈ったところ、これにこたえて釈迦が現れ、夫人に阿弥陀仏やその浄土を観想する方法を教えたとされ、このときの教えが「観無量寿経」であるとされています。
室の明神は室津の賀茂神社で、ご祭神は上賀茂神社と同じ賀茂別雷神です。この本地が韋提希夫人というのは確かに解せないのですが、一方で法然上人伝記七下の韋提希夫人の項には、臨終間近い法然上人を勢観上人(源智上人)が一人で看病していると、気高い女房が車で来臨し法然上人の見舞いをされた。人払いをされたので同席しなかったが、あやしんで見送ったところ川原に出たところで忽然と姿が見えなくなってしまった、戻って法然上人に尋ねたところ、あれこそ韋提希夫人であり、賀茂のあたりにおられると答えられた。賀茂の大明神の本地は韋提希夫人であるということであろうとあります。(浄土宗全書:浄土宗典刊行会編を意訳しました)
このあたりが根拠の様子ですが、韋提希夫人は、成仏が難しいとされた女性を極楽へ導いてくれる存在として、平安、鎌倉時代から女性たちの信仰対象となっていたようですので、男神である賀茂別雷神の本地が韋提希夫人であるというのも、そうした背景のうえのことかも知れません。
この項おわり
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